糸杉はお墓の木
スペインでは、お墓に行くと必ず糸杉の木が植えてあります。
逆に言うと、スペインを列車やバスなどで移動中、突然糸杉の木がまとまってはえている場所があったら、おそらくそこはお墓です。
スペインに限らず、地中海沿岸の国では、糸杉は ≪お墓の木≫ なのです。
糸杉は、スペインを含めた地中海性の気候に適した植物で、手入れをほとんどしなくてもよく、真っ直ぐに伸びていく常緑針葉樹です。
高さ30mくらいまで伸び、また稀に樹齢1000年というものもあるほどで、長持ちする木です。
糸杉がお墓の木として好まれるのは、木がまっすぐ上に伸びるのと同じように、根も横に広がらず、ほぼまっすぐ地下に伸びていくので、お墓に植えても、埋葬した棺に絡んでしまったり、地面を持ち上げたりという事がないためです。
また、亡くなった人の魂が、糸杉のようにまっすぐ天に昇って行けるように・・・とも言われます。
糸杉は、お墓以外では、風よけとしても植えられていて、お墓でも周りにも糸杉を植え、風よけにして、厳粛な場所を静かに守ってくれます。
●手入れがいらない
●年中緑豊かで、枯れない
●根がまっすぐ伸びてお墓の邪魔にならない
●魂を天に導いてくれる
●風よけのため
このように、なかなか理想的な木なのです。
ギリシャ神話との関係
お墓の木として、とても実用的な木ですが、
もともとは、お墓に糸杉を植えるようになったのは、古代のギリシャ人、ローマ人たちでした。
ギリシャ神話に『キュパリッソス』のお話があります。
キュパリッソス、スペイン語でCipariso、ギリシャ語ではKyparissos、ラテン語ではCupressus もしくはCiprés
Ciprés(シプレス)はスペイン語で糸杉の事です。
キュパリッソスは、ギリシャ神話のゼウスの子孫にあたる青年で、太陽神アポロの愛人です。アポロだけがキュパリッソスの心を開くことができたのです。
アポロはキュパリッソスに、金に輝く角を持つ神聖な鹿をプレゼントしました。
キュパリッソスは、この鹿を可愛がり、角や首に宝石などを飾って大事にしていました。
アポロは、青年に狩りを覚えてもらおうと、他の動物も贈りました。
しかし、キュパリッソスは、間違えて、大事に可愛いがっていた鹿を撃ち殺してしまいます。
悲しみに耐えられないキュパリッソスは、アポロに、永遠の涙を流し続けることの許可を乞うのです。
その願いをかなえるためにアポロはキュパリッソスを、悲しみの木 である糸杉の姿に変えてしまいました。
この時から、糸杉は、愛する者、亡くなった人たち を追悼するという事、また 死 とも結びつけられて考えられるようになりました。
糸杉が、永遠の涙を流していると言われる理由の一つは、
糸杉の実は、上の写真のような、コロコロとしたクルミくらいの球状のもので、木全体にものすごい数の実がなり、だんだん開いて最後は落ちるのですが、落ちずに木に残っているものあれば、落ちる頃にはまた次の実がなっているような感じで、なんだか1年中実がつていて、その鈴なりの実が涙を流しているように見えるから、というのと、
樹脂が幹から流れて落ちる様子が、涙を流しているように見えるからだとか。
実は、生命の木でもある
お墓の木という事をお話してきましたが、冬にも緑を絶やさない常緑樹は、強い生命力の象徴でもあり、糸杉も常緑樹なので、生命力とも関連づけられます。
クリスマスツリーに、常緑針葉樹(の幼木)の モミの木を飾るのは、そういう意味もあるからです。
絵画の中にも糸杉はよく描かれています。
下の絵は、レオナルド・ダ・ビンチの『受胎告知』、背景に糸杉が描かれています。
参照:『受胎告知』 フラ・アンジェリコ『受胎告知』天使のような修道士が描いた超自然的な世界
受胎告知が生命の象徴なら、
こちらは死の象徴の糸杉、死を予期していたというゴッホが描いた『糸杉と星の見える道』
街路樹、公園にも
手入れがほとんどいらないことから、街路樹に、また公園にもよくこの糸杉が使われます。
上の写真は、糸杉のトピアリー、常緑針葉樹である糸杉は、トピアリーにも適しています。
この写真の木は、マドリードのレティーロ公園内にあります。ちょっと不気味なデザインではありますが・・・。
トピアリー (topiary) とは、常緑樹や低木を刈り込んで作成される西洋庭園における造形物。鳥や動物をかたどったり、立体的な幾何学模様を造る。庭園技法としては、イギリスの庭園でよくみられる wikipedia より
フラメンコギターにも糸杉
糸杉は、お墓の木というだけではもちろんなく、家具を作ったり、スペインではフラメンコギターの側板、裏板に使われるのがこの糸杉です。クラシックギターに使われる木材より軽くて適しているのだそうです。
まとめ
スペインではよく見かける糸杉の木、スペインだけではなく、ヨーロッパの文化に根付いた興味深い木なのでありました。