マサパンはスペインを代表するアーモンドを使ったお菓子です。
スペイン中どこにでも売ってますが、トレドの物がスペインの中でも特に有名です。
ここでは、マサパンの歴史や、マサパンの特に美味しいお勧めのお店などを紹介します。
マサパンとは
アーモンドを粉状にして、砂糖と卵または水を混ぜて練ったお菓子の事。
表面に焼き色を付けるため、卵の黄身を塗って、ちょっとだけオーブンで焼きますが、焼かなくてもそのままでも食べられます。
最近は1年中買う事が可能ですが、スペインでは特にクリスマスシーズンの定番で、年末年始にはスペイン人が必ず食べる習慣がある伝統的なお菓子です。
マサパンの歴史
マサパンがいつスペインに入ってきたのか、はっきり年代は残されていません。
もともとは、アーモンドが豊富に手に入るイスラム文化圏の伝統的なお菓子、それがスペインにはイスラム軍の支配下におかれていた時代に、彼らの食文化のひとつとして持ち込まれ、この国でも定着していきました。
ちなみに、アラブ人たちがいつからこのお菓子を食べていたかについても、起源ははっきりわかってませんが、9世紀頃原型ができたと言われる有名な【千夜一夜物語(アラビアンナイト)】の物語の中に、マサパンに似たお菓子が、ラマダン(断食の月)の空腹を満たし、また媚薬としても登場することから、少なくとも9世紀には食べていたお菓子だったようです。
スペインの歴史にマサパンが登場したのは、いくつか説があるようですが、
≪有力説1≫ アルフォンソ8世(カステーリャ国王)の時代。
ナバス・デ・トロサの戦(「1212年カトリック連合軍 vs イスラム軍 の戦い)という大きな戦のあった年、イスラム軍に包囲され食糧難に苦しむトレドの街では、教会の敷地で栽培し倉庫に保管してあったアーモンドの実を使って修道院の女性達がお菓子(マサパン)を作って、人々を救いました。その修道院はサン・クレメンテ修道院で現在もトレドに存在し、いまも昔ながらのレシピでマサパンを製造、販売しています。(売店の入口が開いている時と閉まっている時があり、空いてるときは中に入るとマサパン売ってます)
ただ、この説は、13世紀まだスペインに砂糖が豊富にはなく、とても貴重な物だったので、アーモンドと同じくらいの分量が必要になる砂糖を使ったお菓子を大量に作れたかどうか・・・。
トレドのサン・クレメンテ修道院以外にもマサパンを作る修道院はいくつもあって、また他の街では違った種類のお菓子を作って販売して、修道院の大事な収入源にもなっていました。
≪有力説2≫ ロベルト・デ・ノラが書いた料理の本(Robert de Nolaの LIBRE DE COCH=LIBRO DE COCINA) で、レシピが紹介されました。1520年にバルセロナで初版が印刷されたカタルーニャ料理のレシピ本の中に、いくつかのマサパンや、それを使った料理が紹介されていて、この頃から食べるようになったのではないかという説。
いずれにしても、砂糖はまだまだ貴重なもので、マサパンも一般庶民の手には届かない、特別な食べ物だったと思います。
20世紀のスペイン市民戦争時代にも、砂糖が不足したことがあり、その時は、甘みの代わりにアーモンドに乾燥イチジクを混ぜてマサパンを作っていたようなので、砂糖がなくてもいろいろ工夫をして甘いものを作っていたことが想像されます。
マサパン? マジパン?
トレドで有名なマサパンですが、スペインでは、トレド以外では、ラ・リオハ州のSOTO(ソト)のマサパンも有名です。
また、ヨーロッパでは、ドイツのリューベッカーや、ケーニヒスベッカーのマサパンなども有名です。
スペイン語では Mazapán(マサパン ZAは、ザではなくサと発音します)
ドイツ語では Marzipan(マルツィパン)
英語では Marzipan(マージパン)
日本では、マジパンとよんでいるのは、おそらく英語の発音から。
「マサパンってマジパンの事ですか?」と聞かれることがありますが、
基本的には呼び方の違いだけで、同じです。
マジパンというと日本では、ケーキの上のデコレーション用の小さな人形や花のようなものを思い浮かべる方が多いようで、「日本では飾りですが、スペインのマサパンは食べるんですか?」と疑問の方もいらっしゃいます。
簡単に言うと2種類あって、飾り用と食べるための物。
飾り用のマサパンは食べる用のと比べると、生地に使用する砂糖の量が多く、アーモンドの粒がほとんど残っていません。加熱したシロップをくわえてペースト状に練り、粘土のようにいろんな形に細工しやすい状態に仕上がっています。
トレドで有名なマサパンは食べる用で、アーモンドの粒が口の中でザラっとした感じで残って、風味もあり、パサパサしたり硬かったりという事もなく、しっとりした舌触りです。
基本の生地はアーモンドと砂糖、それだけでは生地がまとまらないので、卵の白身または水を入れて、一塊になるまでこね合わせます。
下の写真のは、基本の生地の周りに松の実を乗せて、数分オーブンで焼き色を付けたものです。(これ非常に美味しい!)
こちらは、生地に着色し、フルーツの形に整えたもの。
中にチョコレートが入っていたり、ジャムが入っていたりというのもあります。色がちょっと人工的過ぎる・・・とはじめは敬遠する人もいますが、食べてみるとかなり美味しいです。
マサパンはクリスマスシーズンの伝統的なお菓子なので、きれいな色と形は華やかな席にもぴったりです。
スペインらしく、生ハムの形のマサパン。
下の写真の上段の丸い形のは、マサパンでウナギの形になっています(ウナギにはみえないけど)
ウナギの形のマサパンは、かつてトレドの周りを流れるタホ川にもウナギが捕れる時代があり、クリスマスシーズンには家族のご馳走の一つだったのが、時代と共に環境汚染や乱獲によってこの辺りのウナギは姿を消してしまいました。その頃の思い出・・・?を残すかのように、トレドでは特にクリスマスシーズンにはウナギの形のマサパンが人気があります。
トレドでマサパンを買うなら
お勧めは、1856年創業の、【SANTO TOMÉ】(サント・トメ)というお店です。
この店は、店の奥の製造所で自家製のマサパンを製造しています。
マサパンは箱詰めになったものもあれば、量り売りで、1個でも2個でも買う事ができます。
いくつかの種類のものを試しに買ってみるのもいいかもしれませんね。
マサパンは他の街でもデパートや観光地では1年中買えますが、大量生産のマサパンは、当たり外れがあるかもしれません。トレドのこの店のマサパンは本当に美味しいです。
1か月くらいは日持ちするそうですが、あまり時間が経つと乾燥し硬くなるので、早めに消費しましょう。
この店のマサパンで特にお勧めは、
●Delicias de Mazapán(デリシアス・デ・マサパン)
アーモンドと砂糖とハチミツを混ぜた生地の中に、甘い卵の生地が入っています。(餃子みたいな形してます)
●Pasta de Piñón(パスタ・デ・ピニョン)
周りが松の実のマサパン
どちらも同じお店ですが、サント・トメ通りの店には、店内にマサパンで作った高さ3.60mもある巨大なドン・キホーテの姿のマサパンが展示されています。
これは、スペインを代表する文豪、ドン・キホーテの作者ミゲル・デ・セルバンテス没後400周年にあたり2016年に作られたもので、マサパンの大きさ世界一でギネス認定の作品です。
まとめ
マサパンに限らずスペインのお菓子はかなり甘めで、日本の方にはちょっと甘すぎ・・・かもしれませんが、スペインを代表する銘菓、トレドのマサパン、ぜひ試してみて下さい。
甘党の方には喜ばれるお土産です。
日本に帰って、ゆっくりスペインのお土産話のお茶うけにもぴったりのお菓子です。
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