$(ドル)とスペインの関係 知ってますか?

Gerd Altmann Pixabay

アメリカの通貨ドルの通貨記号が≪$≫になったのは、スペインと深い関係がありました。

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ドルという呼び名は、

1516年、現在のチェコ(ドイツの国境付近)で銀山が発見されました。数年の間に数千の人が銀採掘のためその地方に移住して集落ができ、この地に新しい街がつくられました。その街の名前が、SANKT JOACHIMSTHALザンクトヨアキムスタール(現在のヤーヒモフJACHYMOV)、”聖ヨアキムの谷”という意味です。”谷”の事を当時この地方の言葉で、THAL(タール)と呼んでいました。

あまりにもたくさんの銀が採掘されるため、この銀を使用して、硬貨を作ることになりました。
JOACHIMSTHALで作られる銀貨なのでこれをTHALER(ターラー)と呼ぶようになります。

1525年のヨアキムターラー Classical Numismatic Group, Inc. http://www.cngcoins.com, CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons

この銀貨は、大型で銀の純度が安定していて、質の良さで有名になり、ヨーロッパで交流する商人たちにも安定した硬貨として評価されていきました。

その信頼度の高さからか、16世紀の神聖ローマ帝国でも硬貨の基準をこのTHALERに合わせたほどでした。

もともとドイツ語のTHALER、チェコ語でTÓLAR、ギリシャ語でTÁLIRO、ポーランド語でTALLAR、イタリア語でTALLERO、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーではDALER、アイスランドではDALUR、オランダ語ではDAALDER・・・、そのオランダの植民地であったNEW AMSTERDAM(現在のアメリカのニューヨーク)や他の植民地では、DALLARと呼ばれました。

このように、THALER(ターラー)が、ヨーロッパ各地、またその植民地での通貨の基準になっていったのです。

コロンブスが新大陸に到達した後のスペインでは

スペインが新大陸を手中に収めたあと、1497年当時のスペインでは、通貨の改正が行われました。1535年スペイン王家の法令によって、メキシコに造幣局が造られました。(La casa de moneda de Mejico)

これが、南北アメリカ初の造幣局です。スペインの植民地となっていた、メキシコや、ボリビア、ペルーの銀を使って、どんどん安定した銀貨を製造していきました。

メキシコに造った造幣局で製造していたスペイン硬貨は、EL REAL DE A 8(エル レアル デ ア オッチョ) もしくはPESO(ペソ)、アングロサクソン系の国ではこれをSPANISH DOLLAR(DÓLAR ESPAÑOL)スペインドルと呼びました。
※スペインでは14世紀からREAL(レアル)という通貨が存在していましたが、1497年通貨法の改正で、今までのレアルの8倍の価値があるREAL DE A 8(英語ではpiece of eight)も製造を始めました。

一方ヨーロッパでは、安定していた銀採掘も次第にその量が減っていき、銀貨の銀の含有量が減って、質が落ちていく中、スペインの銀貨(レアル デ ア 8)はその後も南米からの豊富な資源を使って安定し、ヨーロッパ、アジア、アメリカと広く流通していき、18世紀までは、世界で一番流通した硬貨で、その後アメリカ(ドル)や中国(元)などの自国通貨の基礎にもなっていきました。

アメリカ独立後

アメリカは、1776年独立宣言をするまでは、植民地であったため自国の通貨はなく、イギリスやフランス、オランダ、スペインなどの通貨を使っていました。その中でも、スペインドルは、世界中に一番流通していた安定した通貨だったので、植民地時代のアメリカでも、スペインドルが主流で、それは貿易面だけではなく、一般の人達の生活でもスペインドルが主に流通していました。

アメリカ独立後、1792年アメリカが独自の通貨を造るときの模範になったのが、当時のスペインのREAL DE A 8、スペインドル(スペインペソ)とも呼ばれていたもので、これをもとに創られたのが、アメリカドルでした。

アメリカではその後も1857年までは、スペインドルは法定通貨として流通していました。

ドルマークがSに縦棒なのは

≪$≫が、アメリカドルの通貨記号になったのは、いくつか説があります。

1.アメリカ建国前に主に流通していたスペインドルと呼ばれたスペインペソ 
Pesoの複数形がPesos、これを簡略化した表示がP´sで、PSが重なり合った形、
今でもペソを通貨として使っている国はいくつかありますが、ペソの通貨記号は$です

2. スペインドル=スペインペソ=REAL DE A 8、もともとは$(s)ではなくだったという説

3. スペイン語で合計の事をSUMA TOTAL といい、このSと、合計→ = SUMAのSと=が重ねて表記されたものだったという説

4. アメリカが独自の通貨を創った当時流通していたスペインドルのコインの絵柄から

Classical Numismatic Group, Inc. http://www.cngcoins.com, CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons

上の写真のコインは1768年のスペイン国王カルロス3世に時代のものですが、右側の絵柄が、真ん中の王冠の両脇に2本の柱があります。柱にリボンが巻き付いていて、そのリボンがSで、柱が縦の棒、よく見かける$ですが、縦の棒が2本のものもありました。現在のスペイン国章にも表れているこのリボンと柱、これが≪$≫の由来と言う説

スペイン国章 Public domain, via Wikimedia Commons

他にも説はありますが、有力だと言われるのは、この4つです。

まとめ

●16世紀のヨアキムスタールの硬貨がターラーと呼ばれるようにる
●他の場所で造られた硬貨もターラーと似た言葉で呼ばれ、スペインの硬貨レアル デ ア 8=ペソは、Dólar Español=Spanish Dollarスペインドルと呼ばれるようになり、アメリカでも流通していた
●≪$≫は、スペインペソ(P´s)、レアル8(R8)、スペイン語の合計(SUMA TOTAL)、スペインの国章のいずれかで、もとはペソの通貨記号$

『太陽が沈まぬ国』とまで呼ばれたスペイン、今現在はかつての大帝国はどこへやら・・・という感じですが、現在もアルゼンチン、チリ、コロンビア、キューバ、メキシコ、ドミニカ共和国、ウルグアイ、フィリピン(フィリピンペソは、$ではなく  )ではペソを通貨として使っていたり、そのペソの通貨記号$が世界の金融の中心ドル$の歴史的背景にあったり、スペインの栄光の歴史は、今も世界中に残っているというお話でした。