象嵌細工(ぞうがん)は、スペインを代表する伝統工芸です。

世界遺産の街、トレド

迷路のような細い道を歩いていると、お土産屋さんがあちらこちらに。

そのほとんどのお店で見かける、金色で絵が描いてある黒いお皿や小物、それがトレドの伝統工芸品【象嵌細工】です。

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象嵌細工とは

象嵌とは、金属や木材、陶磁器などに、それとは別の素材の物を嵌め込んで装飾する技法で、金工象嵌、木工象嵌などの種類があり、トレドで作っているのは金工象嵌(布目象嵌ともいう)です。

象嵌の意味は、【象る(かたどる)】+【嵌める(はめる)】という意味で、細かい線(溝)の中に金や銀を嵌め込む装飾技術です。

Tamorlan, CC BY-SA 3.0 Wikimedia Commons

象嵌細工の歴史

象嵌の歴史は、古くは古代エジプト、ギリシャ、ローマでも同じような技法の金属の装飾技術があったことが知られています。

下の短剣は、スペインのアビラ県から発掘された紀元前5~3世紀頃の銀と銅を使って装飾されたもの。

スペイン国立考古学博物館(マドリッド)
José-Manuel Benito Álvarez, CC BY-SA 2.5
Wikimedia Commons

スペインでは象嵌細工は、Damasquinado(ダマスキナード)と呼ばれ、名前の由来は、
シリアの首都ダマスカス、スペインにはイスラム教徒とともに象嵌細工の技術は持ち込まれ、特にトレドの街が中心地となりました。

日本にも、京象嵌、加賀象嵌、肥後象嵌といった象嵌で有名な場所があります。

これらの象嵌細工のもとは、16世紀、日本に鉄砲伝来でポルトガルから武器が伝わった時、象嵌細工が施してあり、そこからこの技術も伝わっていきました。

作業工程

作品ができるまでには、多くの作業工程があります。
簡単に説明すると以下の通り。

Txo, CC BY-SA 3.0 Wikimedia Commons

1.初めは(紙の上に)デザイン画を描きます。象嵌細工のデザインは、伝統的な物は2種類。もともとアラブ人たちがデザインしていたのは幾何学模様。スペインでは、幾何学模様の他に、動物や植物(鳥や、花、葉っぱなど)、現在は、宗教的なシーンや、風景、スペインらしくドン・キホーテや、トレドらしい大聖堂など、デザインの種類は幅が広がりました。

Txikillana, CC BY-SA 4.0
Wikimedia Commons

2.象嵌細工の土台の部分は鋼鉄、この土台に、細いナイフ(のようなもの)で細かい線(溝)を縦横無数に引いていきます。こうすることで、後でその上にのせる金や銀が嵌め込みやすくなります。

3.2の土台の上に金(24k、18k)もしくは銀、金と銀を混ぜたもの(薄い緑っぽい色)などを、薄く伸ばして型抜きをして乗せ、溝に嵌め込み、金や銀が破れないように上から軽く叩いて安定させながら、1のデザインを土台の上に装飾していきます。そして、金糸銀糸の細い糸を埋め込んで、デザインを完成させ、また上からトントンと叩きます。

Tamorlan, CC BY-SA 3.0
Wikimedia Commons

4.3まで終わったら、今度は高温の薬品の中に3を浸けて、土台の鋼鉄の科学的酸化を急速に行います(腐食防止加工)。これで、土台が黒色に落ち着き、金と銀は、そのまま輝きを保ちます。

5.その後は仕上げで、また叩いてデザインに凹凸をつけてボリューム感を出していきます。

Espadasyartedetoledo, CC BY-SA 4.0
Wikimedia Commons


トレドの刃物

トレドでは古代ローマ時代から、刃物を作る鍛冶屋も有名で、世界的にもトレドの刃物は知名度があり、高品質の刃物を生産して、その刃物の装飾としても象嵌細工は根付いていきました。

現在でも象嵌細工とともにトレドの刃物は世界的に有名で、それは映画の世界でもその需要があるほどで、大人気映画、指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)の中で使われた剣は、トレドで製造されたものです。

トレドのお土産屋さん
Lucia, CC BY 2.0 Wikimedia Commons

手作りの物、機械製の物

象嵌細工はトレドでも手作りで作業をする職人さんは、現在はそれほど多くはありません。

スペインを代表する工芸品でもあるので、トレド以外の観光地にも、象嵌細工を扱う売店はありますが、その多くは機械で作ったものです。

機械で作ったものだから価値がないとは一概には言えませんが、根気のいる職人さん達の技術や、作業時間、金や銀の使用料やその質なども考えると、その価値には違いが出て、また作業工程の一つ一つに、それをする意味があるので、出来上がりも手作りと機械では大きな差が出てきます。

手作りか、機械製かは、値段ではわかない時もありますが、おそらく実際にいくつかの作品を見ると、どれが職人さんの手作りの物なのかは、わかると思います。作品に輝きがあります。

(とは言っても、初めて見る時は比べようもないかもしれないけれど、手作りで、金や銀の使用料が多い作品は、通常はショーケースの中に展示されていることがほとんどです。参考まで)

José Luis Gálvez, CC BY-SA 2.5
Wikimedia Commons

刃物や武器類だけではなく、身に付ける装飾品、宝箱、家具など、様々な物に装飾が行われるようになった象嵌細工、現在はもっと身近な、ペンダントヘッドやイヤリング、ブレスレット、ブローチ、ネクタイピン、置時計や飾り用の皿など、スペイン旅行の記念にお土産としても人気の工芸品です。

象嵌細工のブローチ
JaGa, CC BY-SA 4.0
Wikimedia Commons

ちなみに、象嵌細工は、水分に弱いので、湿気のない場所に保管すること、またお手入れの際には、洗剤や濡れた布などは一切ダメで、消しゴムやパン(白い部分)で軽くみがくときれいになると、職人さんが教えてくれました。

まとめ

トレドの街では、象嵌細工を扱う店の入り口付近で、実際に作業をしている職人さんを見かける店があります。

象嵌細工の作業場
Txo, CC BY-SA 3.0
Wikimedia Commons

外から見えなくても。トレドではどこからともなく、トントントントントン・・・と作業の音が聞こえてきたりします。

もし見かけたら(音が聞こえたら)、売りつけられるんじゃないかな?と怖がらず、せっかくだから、是非、作業をしているところをのぞいて見て下さい。そういうお店のショーケースに展示されている象嵌細工は、素晴らしい伝統工芸として、一見の価値ありです。

Tamorlan, CC BY-SA 3.0 Wikimedia Commons

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