スペインの『黒い牛の看板』のお話

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黒い牛の正体は?!

この黒い牛の看板は、実はスペインの南 アンダルシア州の、シェリー酒で有名な醸造所の看板です。スペインの高速道路を走っているとよく見かけるこの黒い牛の看板、いかにもスペインらしい風景のひとつとですが、裁判にまで及ぶ過去を持つ、有名人ならぬ、有名牛なのです。

出生地は、アンダルシアのシェリー酒の産地

スペインの南 アンダルシア州にカディス県があります。カディスの街は、今でも人が生活をしている街としては、スペインでいちばん、そしてヨーロッパでもいちばん古く、紀元前1100年頃フェニキア人によって造られた街です。アンダルシアのこの地方は、ヘレス・ デ ・ラ・ フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタマリアという三地区で ”ヘレスの三角地帯”とよばれ、古くからこの地方特有のワイン シェリー酒の産地として有名でした。

ちなみに、このシェリーというのは、もともとアンダルシアのこの地方で作っている酒精強化ワイン(醸造過程でアルコールを添加することでアルコール度数を高めたワイン)のことをヘレスとよんでいるのですが、イギリスに輸出され、イギリス人がシェリーと呼ぶようになり、そのまま他の国でもシェリーと定着してしまったようです。(ヘレスというのが本来の名称でした)

現在もこの地方には、スペイン国内はもとより、世界的に知名度のある優秀な醸造所が競合していますが、その中の一つがOSBORNE(オズボルネ)社。

1772年トマス・オズボルネというイギリス人が、この地で生産されるワインの輸出のため、ヘレス三角地帯の一つ エル・プエルト・デ・サンタマリアに始めた会社で、このOSBORNE(オズボルネ)社が、今回の主役 黒い牛の看板の主です。(OSBORNE はもともとイギリス人、英語ではオズボーンですが、スペイン語はほとんどの単語がローマ字読みで、”オズボルネ” と呼ばれます)

もともとは、商業目的の看板だった

1956年 OSBORNE社では、VETERANO というブランデーの宣伝用の看板を、デザイナー マヌエル・プリエトに依頼しました。そこで誕生したのがこの黒い牛の看板です。一番初めの看板は、木製の高さ4m の黒い牛でしたが、角は白く塗られていて、胴体部分に商品名と社名が描かれていました。数年の間に約200体の看板が設置され、その後どんどん数は増えていき、スペイン人なら誰もが知っているとても有名な看板になっていきました。

木製であったため痛みが激しく、その後1961年に金属製になり、角も黒くなり、高さ4m から7m になりました。1962年には、道路法の改正により、道から20m 離すことが義務付けられ、その時に高さ7mから現在の14m へと大型化されました。

1988年、黒牛にとって災難ともいえる道路法の改正があり、スペイン中の高速道路沿いの商業目的の看板は禁止されることになりました。この時は、胴体部分の商品名と社名を黒く塗ることで何とか難を逃れましたが、その後1994年、行政側から看板の完全撤去を求められ、裁判にまで及びました。

スペインの風景の一部になった黒い牛

この時のスペイン人の反応は大半が牛の方に好意的で、特に生まれ故郷のアンダルシア州では、この看板を重要文化財に登録すべきだとの抗議運動などもあり、裁判の行方が注目されました。

1997年、ついに最高裁の判決がくだされ、この牛はINDULT0(特赦という意味)で撤去を免れたのです。最高裁の判決の理由は、「商品の宣伝広告という枠を越えた、もはやスペインの風景の一部である………」ということらしいです。

映画 ”JAMÓN JAMÓN” にも登場

1992年に公開された ビーガス・ルナ監督の映画 ”JAMÓN JAMÓN ” 、ハビエル・バルデム や ペネロぺ・クルスといった、現在ハリウッドで活躍中のスペインを代表する俳優たちの出世作のひとつですが、この映画の1シーンに、主演俳優たち顔負けの存在感でこの黒い牛は出演しています。

スペインの風景から日本の風景に

実は、スペイン国内だけではなく、国外(メキシコ、デンマーク)にも設置されているところがあり、国内外で知名度のあるこの看板、なんと、日本の新潟県の十日町市松之山温泉にも設置されています。

これは、3年に一度行われる【大地の芸術祭 】で2018年に出展されたサンティアゴ・シエラの作品で、本物より少し小さめで高さ10m、日本、新潟ということで耐震、耐雪面も強化されています。

作品のタイトルは ”ブラックシンボル”、作者のサンティアゴ・シエラは、OSBORNE社の許可を得て、新潟の自然の風景の中に、このスペインのシンボル的存在である 黒い牛 の作品を出展し、OSBORNE社でも2018年が日本スペイン外交関係樹立150周年という特別な年でもあったので、それを快諾しました。

一時は完全撤去にまで追い込まれたOSBORNE社の黒い牛の看板ですが、今では海を越えて遠い日本の地でも、「オズボーンの雄牛」として国際親善の役割を果たしているのです。

現在スペイン中に92体の看板が存在しています。スペインの高速道路沿いの小高い丘や、カーブを曲がった先から スペインの風景に溶け込みながら、いつでも皆さんをお待ちしています。