スペインとチョコレートのお話

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チョコレートの名前の由来

コロンブスの新大陸到達後、[コロンブス交換]と言われる東半球と西半球の生態系が急に混ざり合うという状況(動物、植物、病原菌、武器、思考などの交換)になり、それまでのヨーロッパには存在しなかった物がスペインを玄関口として色々入ってきました。今ではスペインをはじめ多くの国で消費されるジャガイモやトマトといった野菜なども、15世紀末までは存在さえ知られていなかったのです。そしてその中のひとつが今日お話しするチョコレートの原料であるカカオ豆です。

カカオ豆は、中南米からメキシコを中心に今から3000年以上前から存在が知られていて、その後マヤ文明、アステカ文明においてその価値を認められていました。アステカの人々はこれを ”神の飲み物”と呼び、神々を祀る宗教儀式用、もしくは王様や特別な人たちだけが口にすることを許され、また持ち運べるエネルギー源として重宝され、通貨の代わりとしても使われた程大事なものだったのです。

当時は現在のような固形の甘いチョコレートではなく、カカオ豆の種をすり潰して、冷たい水に溶かし、唐辛子やバニラを入れたドロドロの苦い飲み物でした。アステカではこの飲み物を”XOCOLATL ” と呼んでいて、”苦い水”という意味でした。16世紀にスペイン人がこの言葉をCHOCOLATEと呼ぶようになり、それが現在のチョコレートという名前の始まりです。

ヨーロッパで はじめてチョコレートを製造したのは スペイン

1492年にコロンブスが新大陸に到達した時、コロンブスはこのドロドロの苦い飲み物には興味を示さず、その後コロンブスの後に続いたコンキスタドール(征服者)のエルナン・コルテスによって当時のスペイン国王カルロス1世に報告されました。実際にカカオ豆をスペインに持ち帰ったのは、コルテスに同行していた修道士で、スペインのサラゴサの小さな村の修道院(Monasterio de Piedra)で、1524年ヨーロッパで初めてのチョコレートの製造が行われました。

スペインでは初めシナモンやコショウ、その後ハチミツなど入れていましたが、[コロンブス交換]によって新大陸でサトウキビを栽培することができるようになり、苦い水であったこの飲み物に砂糖を入れて甘くして、冷たい水を温かいお湯にかえて、それまでよりは飲みやすい物なりました。スペインでも貴重な飲み物という位置付けはかわらず、王侯貴族や聖職者(一部の修道院も含め)たちの間でだけ消費された高級嗜好品でした。

スペイン王家のお姫様の嫁入り道具

その後17世紀の初めまで、チョコレートはスペイン独占状態でしたが、1615年スペイン国王フェリペ3世の王女アナ・マリアとフランス国王ルイ13世の政略結婚の際、ついにスペインからフランスに渡りました。

その後フランス太陽王と言われたルイ14世もスペインの王女マリア・テレサと結婚、このお姫様は、チョコレート専用の食器や、チョコレート専門の職人(今でいうところのショコラティエ)もお嫁入りの時に準備させた程チョコレートがお好きだったようで、フランス社交界にも一気にチョコレートは浸透していきました。

飲み物から固形のチョコレートへ

その後のチョコレートですが、18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命で、大きな変化の時を迎えました。18世紀末までは、ヨーロッパ各所に水力を利用したチョコレート製造所がありましたが、この時代に蒸気機関の開発が進み、動力の刷新が行われました。

そのおかげでまず1828年オランダのバンホーテン(Van Houten)社がカカオからカカオバターを搾取し(カカオ豆は約50%はカカオバターという油分なので、それを取り除く)、世界で初めてカカオパウダーを作りました。これによってココアという形でチョコレートがもう少し身近なものになりました。

1874年にはイギリス人ジョゼフ・フライが、この搾取されたココアバターを再利用し、すり潰したカカオ豆に砂糖を入れ、そこにこのカカオバターを丁度よく固まる割合で混ぜ固まらせ、それまで飲み物であったのを固形の食べるチョコレートにしました。

1875年、スイスの世界最大の食品・飲料会社ネスレ(Nestle)社が幼児向けの粉ミルクの開発に成功し、それを使ってスイス人ダニエルて・ペーターが板状のミルクチョコレートを作りました。

そして1879年、スイスのリンツ(Lindt)社がそれまでの固いチョコレートを、温めて液状にして長時間練り上げる作業(コンチング)をすることでなめらかでとろけるようなチョコレートを作りあげました。

日本には18世紀末に伝来

日本には、まだ鎖国をしていた時代、当時唯一外国との門を開いていた長崎の港から入国、”猪口令糖しょくらとを “の名称で明治1877年(明治10年)頃から販売されています。

チョコレートが現在の姿に落ち着くまでの長い道のりでしたが、このようにスペインがその歴史の大事な一部分を担っていたのです。最近では、塩入れチョコレート、チリパウダー入りチョコレート、コショウ入りチョコレートなど、今までの常識からは考えられないような新感覚のチョコレートが販売され、人気があるようですが、よくよく考えてみると、それはチョコレートの嗜好品としての歴史が始まったころからすでに存在していた定番だったという事です。

スペインでは、今でもドロドロのチョコレートを飲むのはすごく一般的です。かつては神々の、王侯貴族の飲み物であったチョコレートが、今は子供から大人まで気軽に楽しめる庶民的な嗜好品になりました。皆さんもぜひ一度 本場のドロドロのチョコレートを試してみてはいかかでしょうか?