ギネス認定 世界一古いレストラン “BOTIN”

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スペイン伝統料理

スペインは、いつの頃からか、” 情熱の国スペイン” というキャッチコピーだけではなく、” 美食の国” として紹介されることが多くなりました。海の幸にも山の幸にも恵まれたこの国の食文化は、世界に誇ることのできる、バラエティーに富んだ豊かな文化のひとつです。ピンチョスやタパスのようなおつまみ系の気軽なもの、有名シェフの斬新な創作料理系と選択肢はいろいろあるのですが、ここではスペインの伝統的なお料理のひとつ ”子豚の丸焼き” と、その専門店でマドリードの有名なレストラン “ボティン ” を紹介します。

創業1725年

ボティンはマドリードの古い建物や雰囲気を今に伝える街の旧市街地、マヨール広場や、近年人気のあるサンミゲル市場のすぐ近く、クチジェロス通りにあります。この辺りは、1561年にマドリードに首都が定められる以前から、街の外からの農民の農産物の取引や、色んな職業の職人たちが集まってきて商売をしていた、その頃のマドリードの商業の中心地だったところで、街内外の人の出入りが頻繁にある活気のある場所でした。今でも当時の雰囲気を残す、マドリードの老舗の飲食店がずらりと並んで賑やかなところです。

ボティンの建物自体もすごく古いもので、少なくとも16世紀の末には存在していたそうです。当時、2階建て以上の建物の持ち主は、王宮もしくは貴族のお屋敷に宿泊しない高貴な人たちに、必要であれば自分の家の2階以上を提供しなければならないという決まりがあり、それが嫌な場合は、それに代わる税金を納めると免除してもうことができました。その免除してもらった1590年頃のこの建物の記録が残っているそうです。

18世紀、フランス人でスペインのアストゥリアス地方出身の女性と結婚していた、JEAN BOTINという人がこの地に移り住み働きはじめ、この奥さんの甥っ子CANDIDO REMISが、もともとあったワイン倉庫の上に、小さなPOSADA を始めました。POSADAというのは、日本でかつてあった旅籠屋のようなもので、宿泊施設と食事ができる小規模な旅館のようなものでした。それが1725年のことで、”BOTIN” のはじまりです。

この時代ヨーロッパには、それぞれの職業ごとに品質管理と、無駄な競争を防ぐ目的で、同業者組合(ギルド)が存在していました。それによって、本来なら肉なら肉の同業者組合、魚なら魚の同業者組合の管理下でしか、食材を売買したり料理を提供するということができませんでしたが、POSADAでは各旅人が食材を持ち込んでいて、それを調理して提供するというサービスが暗黙のうちにおこなわれていたようです。

子豚の丸焼き

ボティンの名物料理が子豚の丸焼きです。子豚は、マドリードの北のセゴビアの子豚が有名で、週に3回から4回搬入されます。基本は、母豚のミルクしか飲んでいない生後3週間の4kg~4.5kgの子豚で、冷凍することはなく、新鮮な状態でキッチンに届きます。

子豚のレシピはいたってシンプルで、材料は子豚と、塩と水です。

創業の頃から使い続けている、樫の薪の匂いのしみついたオーブンで約2時間ゆっくりと焼かれます。皮はパリパリにこんがり仕上げられ、中は豚とは思えない柔らかさです。

スペインでの伝統的なご馳走といったら、子豚の丸焼き、もしくは子羊の足のローストで、今でも家族が集まるお祝い事や、クリスマスやお正月など特別な日のご馳走として食べることが多い料理です。

創業以来約300年 休まず営業を続けている

20世紀に入り、店のオーナーはGONZALÉS家にかわりました。

スペイン市民戦争(1936年~1939年)の時代は、店は兵隊の食堂として使用されましたが、その賃貸料で何とか店の看板をおろさず、基盤を守り続け、市民戦争後子供たちの代になって、少しずつ店の経営を立てなおし、拡大していきました。

彼らが元のオーナーから商売を引き継いだ時、レストランとして使っていたのは1階部分だけで、現在は店の一部となっている地下は倉庫として、2階3階部分は家族の住居として使われていました。家族経営の小さなレストランで、働いていたのは7人(オーナー夫妻とその3人の子供たちと、従業員として2人)だけでした。それが今では、230席、従業員68人、昼も夜もほぼ満席の状態で、国内外からのお客様を迎える、予約が取りにくい大人気のレストランです。

ギネス認定 世界一古いレストラン

このレストランが有名なのは、子豚やそのサービスだけではありません。

1987年、なんとギネスから、世界一古いレストラン の認定を受けたのです。現在の店のオーナーの一人、José Gonzalés氏のインタビューによると、「ギネスから電話で認定されたことを伝えられた。きっとヨーロッパのどこかのレストランが世界一古いんだろうと思っていたけど…(まさか自分たちが!)」と、本人たちも予期せぬ認定だったようです。1725年創業以来一度も店を閉めることなく、同じ場所で、同じ屋号で、営業を続けてきたというのが認定の理由でした。

店の入り口にはギネスの認定証が誇らしげに飾ってあります。

世界の著名人も足を運んだ

ボティンに足を運んだ有名人は数知れずなのですが、もちろん現在のスペイン国王もその一人。またアメリカの小説家アーネスト・ヘミングウェイのマドリードのお気に入りレストランだったというのも有名な話です。

18世紀のスペインを代表する画家のフランシスコ・ デ ・ゴヤ、彼は1746年サラゴサで生まれ、1761年15歳の時にマドリードに来て、その後最終的にはスペイン王家の宮廷画家と出世していくのですが、そのゴヤがまだ駆け出しで画家として食べていけなかった20歳ごろ、ボティンで皿洗いとして働いていたそうです。

伝統の火は2020年も消えなかった

2020年は、世界中の誰も予想できなかった、大変な年になってしまいました。

スペインでも、コロナ感染者数が3月から急激に増え、対応策として、やむをえずロックダウンが行われました。この世界規模の不可抗力の前に、創業以来はじめて、ボティンも店を休業するしかありませんでした。

この時ボティンが懸念したことのひとつが、店のシンボルでもあるオーブンとその火でした。このオーブンは、花崗岩とレンガで作られた縦、横のサイズ30cmの耐火性オーブンで、もちろんもう製造しているところはありません。使い始めてから今まで一度も火を絶やしたことがなく、ロックダウンがいつまで続くかわからない状況で、その後同じように火を入れることができるのか、ボティンにとっては、オリンピックの聖火を消してしまうような、あってはならないことだったのです。

ロックダウン中消えていったレストランもたくさんあったのですが、ボティンは、店は休業しましたが、店の心臓であるオーブンの火は守りぬきました。店の近くに住む従業員の一人が、毎日オーブンと火の状態を確認に通ったのです。店のオーナーもできる限り足を運んで300年の歴史を消さずに守り続けました。

ロックダウン中、スペイン中の多くのレストランが、医療従事者のために、また職を失った方々のために無償のサービスを提供したのですが、ボティンもその一つでした。

これからも歴史を重ねて欲しい!!

ロックダウンが終わり、ボティンは再始動しています。まだ状況は落ち着きませんが、世界一古いレストランという ボティンにとってだけではなく、世界的にも大事な歴史がこれから先も続いていくことを切に願います。