うなぎの事をスペイン語で、ANGUILA(アンギーラ)、稚魚の事は、ANGULA(アングーラ)と言います。ちなみに、うなぎの稚魚もどき(?)は、GULA(グーラ)と言います。
スペインの年末年始のメニューでも人気の「うなぎの稚魚」、オリーブオイルにニンニクと鷹の爪を入れて軽く炒めた物なのですが、よーーーく見るとこれが、本物そっくりにすり身でつくられた「うなぎ稚魚もどき」なのです。
うなぎの稚魚
スペインでは、うなぎを日本のようにたくさん消費するかというと、地方によっては、ぶつ切りにして煮込んだ料理などありますが、あまり一般的には食べる習慣がありません。ましてや、その稚魚など、見向きもされない時代もあったようで、昔は動物のエサにしていたそうです。
その後時代とともに、豊富にあったうなぎの稚魚を食べるようになりますが、それでも、高級品という感覚ではなく気軽に、スペイン人の知人に言わせると、「子供の頃は、オムレツにうなぎの稚魚入れてパクパク食べてたよ」という感じだったみたいです。
日本でシーズンになると、生シラスや、釜揚げシラスなどを食べるのと、同じような感覚だったみたいです。
ちなみに、うなぎの稚魚のことを、日本ではシラスうなぎと言うそうです。
そのシラスうなぎですが、スペインでも今では高級すぎて、市場でも見かけることはほとんどなく、シーズンである冬にごくまれに、また、高級レストランで置いてあることがあるくらいです。
これは、1980年代からのシラスうなぎの乱獲と汚染問題が原因となっていて、シラスうなぎの水揚げ量が、激減したためです。
世界のうなぎの70%は、日本で消費され、日本向け、もしくは中国、韓国などアジアの国への無制限の輸出が大きな原因の一つでした。
うなぎは回遊魚
回遊魚とは、成長段階や環境の変化に応じて生息場所を移動する魚のことです。
うなぎの種類は19種ありますが、そのうちヨーロッパやアメリカのうなぎは、大西洋のサルガッソ海で産卵します。
春に生まれたウナギの稚魚は、はじめは、細い葉っぱみたいな形で、なおかつ雄か雌の性別さえないそうです。
半年くらいすると、5㎝くらいの大きさになります。
そのくらいの大きさになったら、海から川にお引越しです。まず川の河口に集まってきて、そこで、海水から淡水の生活に適応できるようにしばらく滞在しています。シラスうなぎは、この河口に集まっている時に捕獲したものです。
淡水に慣れてくると川を登って上流まで、そこでエサを食べながら大きくなって、7~8年すると産卵のために、今度は逆に川を下り、またサルガッソ海まで戻っていきます。
というのが、うなぎの一生。(サーモンと逆パターンですね)
養殖のうなぎというのは、海で生まれて、河口で川生活の準備をしているシラスうなぎを捕獲して育てた物で、成長に応じて生息場所を変える回遊魚の、全行程を養殖するのは難しいのだそうです。
そんなわけで、養殖するには、シラスうなぎが必要で、そのための輸出で乱獲され激減して、スペインではお見かけしなくなってしまった、シラスうなぎ。
そこで、開発されたのが、「うなぎの稚魚もどき」です。
日本の加工技術で、すり身のシラスうなぎ開発
うなぎの稚魚もどき=GULAグーラは、バスク州のギプスコア県ウスルビルのアギナガ村のうなぎ漁のグループが集まってできた、AGUINAGA ANGULA(アギナガ アングーラ)という会社が開発をしたものです。
この地方には、オリア川という、大西洋ビスケー湾に流れ込む川があり、この河口付近ではうなぎ漁が行われていました。
1977年には、稚魚の捕獲量が1,000トンを超えるほどの乱獲で、その後少しずつその量が減っていき、10年後には、100トンと、1/10にまで減ってしまいました。
この頃になると、うなぎの稚魚は、ちょっとした贅沢品、特別な時に食べるものというカテゴリーになり、年末年始のご馳走の一つになっていました。
このままでは、漁が続けられない という状態の頃、1986年、予期せぬ受賞で、これまでの功績を讃えてということで、アメリカのテキサスで行われたゴールドスター賞の授賞式に出席することになった、会社の責任者アルバロ・アスペイティア氏、その会場で見た、日本のある企業のビデオにヒントを得ることになります。
そのビデオでは、魚を加工してSURIMIすり身からカマボコや、カニカマなどを加工する技術が紹介されました。
うなぎの稚魚の何か代替えはないものかと、思案していた時だったので、この技術を使って、稚魚代替え品を作ることを思いつき、日本の大手の食品加工会社の協力を得て、スペインに工場を作り、試作を重ねて、出来上がったのが、この稚魚もどき、グーラです。
商品化にあたり、バスク地方で有名なバスク美食倶楽部のメンバーにも意見を聞き、彼らのお墨付きで、ついに出来上がったグーラ、見た目は本物そっくりです。(違いは目がないだけ)
材料にアラスカ産のスケトウダラを使っていて、1㎏のグーラを生産するのに5尾のスケトウダラを使用するのだそうです。
味は、はじめから、”稚魚もどき“とわかっていれば問題はなく、本物のうなぎの稚魚も、オリーブオイルとニンニクで炒めてしまうと、その味のほうが強いので、また、ようはカニカマみたいな感じなので、スペイン人の口にも合うお味です。
本物は、歯ごたえがもう少しありますが、値段から考えると、本物が1㎏で€1,200位のところ、グーラは、1㎏で€25くらいなので、約50倍近い差があることを考えると、合格ラインだったようです。
特許の申請も済ませ、販売を始めたのが、1991年、その後、テレビでも大々的に宣伝をし、特にもともとの稚魚の捕獲シーズンが冬で、時代とともに家族で集まる機会が多くなるクリスマスや大晦日のご馳走の一つとなっていたので、その時期に特に宣伝を重ねて、大ヒット商品となりました。
まとめ
SURIMIは、今やスペイン人も普通に知っている言葉で、日本の技術で、魚の加工製品だというので、健康志向で、日本食人気もあって、ますます安定した人気です。
日本人的感覚だと、何もわざわざクリスマスや大晦日のディナーに(カニカマみたいな)グーラを食べなくてもいいかな?とも思いますが、見ていると、子豚や子羊と言ったこの時期人気のメニューと一緒に、このグーラも出てきたりします。
おそらくスペイン人で、本物のアングーラは食べたことはなくても、グーラを食べたことがない人は いないのではないかというくらい、なぜかスペインの食文化になじんでしまった、SURIMIを使ったグーラ。
スペインのバルのおつまみ(ピンチョ)で、パンにグーラが山盛りになっているのも よく見かけます。
運が良ければ、どこかのレストランで 本物のアングーラに巡り合うかもしれませんが、グーラなら、きっと食べる機会があると思います。
オリーブオイルとニンニクで炒めた(カニカマみたいな)グーラ、話のタネに試してみてもいいかもしれませんね。