ムリーリョ『貝殻の子供たち』 プラド美術館 かわいらしい子供たちが主人公の作品です

ムリーリョが描くマリア様は世界一美しいマリア様ですが、
彼が描く子供たちは、これまたかわいらしい!!

イエスの洗礼の様子を描いた絵は多くの画家たちが描いていますが、この絵のように、そのシーンを思わせるような、しかも子供時代のイエスと洗礼者ヨハネを描いた絵はあまり多くはありません。

貝殻の子供たちムリーリョの特有のメルヘンワールドです。

貝殻の子供たち 1670年頃 プラド美術館
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ムリーリョの時代のセビリア(17世紀)

ムリーリョは1617年にスペイン セビリアの街で生まれた画家です。

セビリアの街では1649年ペスト禍で、多くの人が亡くなり、街は貧しい人たちであふれ、
親を亡くした子供たちが肩を寄せ合いながら生きている姿もありました。

そういう背景の中、人々は、神に祈り、美しいマリア様に救いを求め、
なにか、気持ちを穏やかにしてくれるようなものをきっと求めていたはずです。

そんな時代に、ムリーリョが焦点をあてたのが、純粋無垢な子供たちの姿でした。

貝殻の子供たち

この絵の登場人物は、イエスと洗礼者ヨハネ(と子羊)。

それぞれがまだあどけない子供時代と言う設定で描かれています。

貝殻に入った水をイエスがヨハネに飲ませようと差し出しているシーンです。

向かって右手の子が洗礼者ヨハネの幼少期。

洗礼者ヨハネは聖書によると、「ラクダの皮の服を着て、腰には革の紐、
イナゴとハチミツ(!? )を食べていた」らしい、実はイエスより半年ほど年上の”いとこ同士” の関係でした。

ヨハネが持っている杖、よく見ると十字架の形になっていて、
そこに結ばれたカルトゥ―シュ(装飾用の紙帯、文字や紋章がかいてある)には、
『ECCO AGNUS DEI= 神の子羊を見よ』と書かれています。
ここでいう子羊は、イエスの事です。

子羊は犠牲という意味だけではなく、純潔、無邪気さを象徴していて、
羊飼いが最終的には子羊を死に導いても、それでも信じて後を追うことから、殉教という意味も表します。

また、この絵の中では、子羊は子供たちのお気に入りの遊び仲間のような存在で、全体的に優しい子供らしさを表現するのに効果的に使われています。

ヨハネの後方にはわかりずらいですが、川が流れています。

この川がイエスがヨハネから洗礼をうけたヨルダン川

ムリーリョ 洗礼を受けるイエス セビリア大聖堂

イエス、洗礼者ヨハネ、ヨルダン川、子羊と、信者の人達が、「あ~、あのシーンだ、イエス様の洗礼の川のシーンだ~」と想像が膨らむ内容で描かれた、宗教画なのですが、

実際は、イエスとヨハネは子供の頃には会う事はなかったらしいので、この子供時代の回想記は、画家ムリーリョの創作です。

とは言っても、子供時代の2人が一緒に描かれた絵は、これが初めてというわけではなく、例えば15世紀後半には、ダ・ヴィンチも描いてます。(参考まで)

岩窟の聖母
ダ・ヴィンチ ルーブル美術館

ムリーリョという画家は、宗教画を主に描いていまいしたが、
宗教画だけではなく、風俗画と言われる、庶民の普段の生活の様子を描く画家としても有名でした。

宗教画や王家の肖像などは、マドリードの王宮で当時の宮廷画家、ムリーリョと同郷セビリア出身のディエゴ・ベラスケスが有名ですが、セビリアに住み続けたムリーリョは、もっと親しみやすい風俗画もたくさん描いています。

そういった絵は、スペイン国内より外国での評価と需要が高かったようです。


ムリーリョが生きた17世紀というと、
フランドル地方(現在のオランダやベルギーなどの地域)はすでにスペイン領から独立を勝ち取り、
また宗教改革でプロテスタント側に立っていて、プロテスタントでは、宗教画などの需要が減ってしまい、逆に風俗画が人気があった時代でした。

ムリーリョ 蚤をとる少年 
ルーブル美術館

また地元セビリアの特権階級の人達のあいだでも風俗画の需要はあり、そして、イエスや聖母マリア、ヨハネなどの聖書の重要人物たちを幼少期の姿で描いた絵も人気がありました。

ムリーリョの独創性は、宗教的内容の絵を、風俗画のような親しみやすい、純粋・無垢な子供たちの姿で表現したことです。

フランドル地方向きには、宗教っぽくない子供の絵、スペインでは宗教関係の子供の絵と、同じように子供が主人公であっても絵の性格がちょっと違っています。


そして、これらの多くの自然な風俗画は、外国に流れて行ったものがほとんどで、プラド美術館では鑑賞できないのが残念です。

ムリーリョ ぶどうとメロンを食べる子供たち 
アルテ・ピナコテーク ミュンヘン

上の絵のような、庶民の生活、貧しい子供たちの様子などをテーマに描かれた作品、こちらの方が、普通の子供らしさが自然に表現されています。(籠のブドウなどは、静物画のような仕上がりですね)

貝殻の子供たちでは、同じ子供が主人公でも 、なんだか只者ではない感じというか、崇高な感じが漂っていて、また、地上と神の世界を3人の天使の存在がつないでいます。

プラド美術館にある 子供が主人公の ムリーリョの作品

小鳥のいる聖家族 1650年頃 プラド美術館

手には小鳥を掴みながら、父親であるホセと遊んでいる、
奥には聖母マリアが、家事をしながらその微笑ましい父子の様子を見ている、普通に一般家庭の様子で描かれた、幼い頃のイエスの様子。

良き羊飼い 1660年頃 プラド美術館

良き羊飼い(=イエス)は、100頭の羊のうち1頭が迷ったら、他の99頭ではなく、その1頭のために心を尽くして探し出す、迷子の羊は罪人を意味し、たった1人の罪人も、神は見捨てないという例え、それを子供の姿のイエスで描いた作品。

子供時代の洗礼者ヨハネ 1670年頃 プラド美術館

ヨハネのアトリビュート(人物を特定するための持ち物)であるラクダの皮の服、手には十字架の杖、子羊は、イエスを象徴しています。

これら3枚と、貝殻の子供たち は、プラド美術館 1階 SALA17 (展示室17)にまとめて展示されています。

また、隣の展示室(SALA16 )には、これまた珍しい幼少期の聖母マリアとその母アナを描いた作品も展示されています。

マリアに読書を教えるアナ 1655年頃 プラド美術館

王家の肖像と、宗教画が多いプラド美術館内で、宗教関係の作品ですが、
ムリーリョのメルヘンチックなクリクリっとした かわいらしい子供や天使の作品は、かなりほっとします。

ムリーリョの代表作の1枚でもある貝殻の子供たち
きっとムリーリョのファンになるきっかけとなる1枚だと思います。

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